5 不育症

図20 配偶子ならびに受精卵の染色体異常率5)
図21 母体年齢と出生児の染色体異常6)

母体の年齢が高齢になると流産率が増加すると考えられています。これは胎児の染色体異常の頻度が母体の年齢が高齢になるほど増加するためで、母体年齢35~39歳で流産率が25%、40歳以上になると流産の頻度が51%との報告があります。

自然流産について

自然流産は全妊娠の10~ 15%に起こりますが、最も頻度が高いのは胎児染色体異常といわれています。自然流産の60~ 80%に胎児染色体異常が認められ、多くの異常は配偶子(精子や卵子のこと)が形成される過程、あるいは受精時に偶発的に起こることが分かっています。この偶発的に発生する染色体異常はどの妊娠においても発生する可能性がありますが、予防あるいは治療することができません。

5)大濱紘三ほか: 新女性医学体系28. p159, 2000.
6)Schreinemachers DM, et al.: Hum Genet. 61: 318-324, 1982.より改変

図22 不育症の定義
自然流産全妊娠の10 ~ 20%
反復流産全妊娠の約5%
習慣流産全妊娠の約1%
表9 流産の頻度7)

7)斉藤 滋ほか:平成23 年度厚生労働科学研究費補助金
「地域における周産期医療システムの充実と医療資源の適正配置に関する研究」
習慣流産(いわゆる「不育症」)の相談対応マニュアル, 2012

不育症とは

1)反復流産

流産を2 回以上繰り返した場合をいいます。近年、反復流産も原因精査の対象と考えられるようになってきました。

2)習慣流産

流産を3 回以上繰り返した場合を言います。(死産や早期新生児死亡は含めません)。
出産歴がない原発習慣流産と、出産後に流産を繰り返す続発習慣流産があります。
続発習慣流産は、赤ちゃんの染色体異常による場合が多く、明らかな原因は見つかりにくい傾向があります。

3)不育症

「妊娠はするけれど2 回以上の流産・死産もしくは生後1 週間以内に死亡する早期新生児死亡によって児が得られない場合」と定義されています。つまり、反復流産、習慣流産に加え、死産・早期新生児死亡を繰り返す場合を含めて「不育症」と定義しています。( 図22表9

流産回数と次の妊娠における流産率

以下に過去の流産回数と次回妊娠の成功率についてお示しします。
過去に5回までの流産であれば、次回妊娠における成績は良好です。

過去の流産回数妊娠数成功率染色体異常を除いた成功率
2回447324/447 (72.4%)324/405 (80.0%)
3回326239/326 (73.3%)239/296 (80.7%)
4回10665/106 (61.3%)65/100 (65.0%)
5回3820/38 (52.6%)20/34 (58.8%)
6回225/22 (22.7%)5/17 (29.4%)
7回136/13 (46.2%)6/11 (54.5%)
8回31/3 (33.3%)1/3 (33.3%)
9回31/3 (33.3%)1/3 (33.3%)
11回20/2 (0.0%)0/2 (0.0%)
14回20/2 (0.0%)0/2 (0.0%)
962661/962 (68.7%)661/873 (75.7%)
表10 流産回数別次回妊娠成功率8)

不育症の原因と検査

不育症の原因としていくつかの要因が明らかにされています(図23)。このため検査を行うことで、不育症の原因が明らかになることがあります(表11)。

しかしこの検査を行っても、約半数は流産の原因がはっきりしません。

8)Fuiku-Labo(厚生労働省研究班)ホームページより引用

図23 不育症のリスク因子9)
検査内容医療保険の適応
一次スクリーニング子宮形態検査経腟超音波
子宮卵管造影
子宮鏡
内分泌検査甲状腺機能
糖尿病検査
夫婦染色体検査
抗リン脂質抗体抗カルジオリピンβ2
グルコプロテインⅠ複合体抗体
ループスアンチコアグラント
抗カルジオリピンIgG抗体
抗カルジオリピンIgM抗体
選択的検査抗リン脂質抗体抗PEIgG抗体(抗フォスファチジルエタノールアミン抗体)×(薬事未承認)
抗PEIgM抗体×(薬事未承認)
凝固因子検査抗Ⅻ因子活性
プロテインS活性もしくは抗原
プロテインC活性もしくは抗原
APTT

9)Fuiku-Labo(厚生労働省ホームページ)より改変

1.染色体異常

夫婦いずれかに相互転座などの染色体異常を認めることがあります。

2.子宮の形態異常

子宮の異常としては先天性の子宮奇形(双角単頸子宮、中隔子宮、単角子宮など)や子宮筋腫、子宮腔癒着症などが知られています。子宮卵管造影、子宮鏡、超音波断層法などによって診断することができます。中隔子宮が流産の原因になる理由として、中隔部分の血行動態が悪い、あるいは子宮腔が狭いために発育が妨げられるなどが考えられています。

3.内分泌・代謝異常

甲状腺機能異常、糖尿病などが不育症と関係しているという報告があります。

4.抗リン脂質抗体症候群

全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: SLE)などの自己免疫疾患をもつ女性は流産や死産を繰り返すことがありますが、抗カルジオリピン抗体やループスアンチコアグラントなどの抗リン脂質抗体が流産の発症に深く関係していることが明らかになっています(図24)。血栓症あるいは妊娠の異常の既往のある女性で抗リン脂質抗体が存在している場合を、抗リン脂質抗体症候群といいます。

5.凝固因子異常

プロテインC、プロテインS、第Ⅻ因子などの凝固因子の欠乏が不育症の原因となることがあります。

図24 抗リン脂質抗体による不育症・胎児発育遅延発症機序

習慣流産の治療法

それぞれの原因疾患に対して治療を行います。

原因治療
染色体異常相互転座等遺伝カウンセリング等
子宮異常子宮奇形子宮形成術
子宮筋腫子宮筋腫核出術
内分泌甲状腺機能異常内科的治療
糖尿病
自己免疫抗リン脂質抗体症候群抗凝固療法(ヘパリン・アスピリン)
凝固因子異常プロテインCおよびS欠乏症
抗Ⅻ因子欠乏症
抗凝固療法(アスピリン)
表12 習慣流産の治療法