2 月経周期と妊娠の成立機構

月経周期の調節機構

月経周期中、女性の身体は脳内にある司令塔「視床下部」から分泌されるゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)放出ホルモン(GnRH)の律動的な分泌の支配を受け、卵胞成熟、排卵という協調的な一連の変化が周期的に起こります。その周期は約28日を単位としています。さて、視床下部から分泌されたGnRHは、下垂体にあるゴナドトロピン産生細胞にはたらき、「卵胞刺激ホルモン」(FSH)と「黄体化ホルモン」(LH)が分泌されます。FSHは卵巣にある卵胞を発育させ、LHは発育して成熟した卵胞に働いて排卵を促します。この間、卵胞からはエストラジオールが分泌され、排卵後の黄体化した卵胞からはプロゲステロンとエストラジオールが分泌されます。これらの卵巣ステロイドホルモンは子宮に働きます。すなわち、エストラジオールは内膜を増殖させ、一方、プロゲステロンは分泌期変化を起こして受精卵が子宮内膜に着床しやすいように変化させます。

ホルモンの変化(非妊娠時、成人)

①FSH
(卵胞刺激ホルモン)

下垂体からのFSH分泌は卵胞期前半に高くなり、卵胞発育が進むと低下し、排卵期に一過性の上昇を示しますが、黄体期になるとまた低下し、黄体期後期になると、次の卵胞発育を促進するため増加に転じます。この変化をほぼ28日周期で繰り返します。FSHは卵巣に働き、卵胞を発育・成熟させる働きがあります。

②LH
(黄体化ホルモン)

LHには成熟した卵胞の一部を破裂させて卵細胞を排卵させ、残った卵胞を黄体化させる働きがあります。卵胞期後半のエストラジオールの上昇の結果、視床下部・下垂体系が刺激されてGnRH分泌が促進されることにより、LHが分泌されます。LHは排卵期に急激で急峻に分泌されます。これをポジティブフィードバック作用といいます。

③エストラジオール

卵胞期前半では卵胞発育が緩徐なため、エストラジオールの分泌も低値を示しますが、卵胞期後半になると卵胞の発育が加速されるため、急上昇します。このエストラジオールの急上昇がLHの放出をもたらします。また、エストラジオールは子宮に働き、内膜を増殖させ、頸管粘液の分泌を高めます。

④プロゲステロン

排卵後に卵胞が黄体化すると、この黄体からプロゲステロンが分泌されはじめます。プロゲステロンは黄体期中期にピークに達します。妊娠が成立するとこのピークが持続しますが、妊娠が成立しなければ、黄体の寿命がつきると(一般に黄体の寿命は排卵後約14日)、黄体の退縮に伴って低下します。プロゲステロンは増殖した子宮内膜を分泌期に移行させる働きがあります。また、基礎体温を上昇させます。

月経周期中の卵巣・子宮内膜・頸管粘液の変化

卵巣の変化

卵胞は卵子を包む袋と考えられます。卵巣内には多数の卵胞が存在します。後述するように(卵子の成熟の項参照→ 6 頁)、卵巣には原始卵胞から成熟卵胞までさまざまな段階の卵胞が存在します。原始卵胞は下垂体から分泌されるFSH に刺激されて成熟過程を歩み始め、最終的に成熟卵胞になって排卵します。排卵後は黄体になります。この過程で、エストラジオールやプロゲステロンなどのホルモンを分泌するわけです。月経周期中、卵巣では卵胞の成熟、排卵、黄体化が、下垂体の指令のもとに起こっています。

子宮内膜の変化

卵胞の発育に従ってエストラジオールの分泌が増加します。このエストラジオールにより、子宮内膜が増殖します。内膜全体の厚さは2 ~ 3mm に達します。排卵後は、黄体から分泌されるエストロゲンとプロゲステロンの働きにより、内膜腺の発達と分泌が盛んになり、受精卵の着床が可能な状態を作り出します。

頸管粘液の変化

排卵期に増加する頸管粘液は、膣内に射精された精子の通り道として、妊娠の成立に重要な働きをしています。特に、精子はこの頸管粘液を通過している間に受精能を獲得するといわれています。この頸管粘液の増加にはエストラジオールの分泌増加が関与します。排卵期には量が増加し、牽けん糸し性せいが増し、塩分濃度が上昇し、顕微鏡で見るとシダ状結晶が観察されるようになります。排卵後は、プロゲステロンの影響で急激に量が減少します。

卵子の成熟、排卵

卵子の成熟

成熟女性の卵巣には、原始卵胞と呼ばれる、卵細胞が1層の卵胞細胞に囲まれたままの卵胞が多数存在します。この原始卵胞が順番に、下垂体から分泌されるFSHの働きにより成熟を開始します。まず、原始卵胞は次第に多層になり一次卵胞になります。原始卵胞から一次卵胞までは数カ月かかります。さらに4カ月かけて細胞は厚くなり、内腔を持つようになり、二次卵胞になります。この二次卵胞は、ますます多層となり内腔も拡大して成熟し、排卵に至るわけですが、二次卵胞から排卵まででも3カ月を要します。このように、卵胞の成熟は実際には長期間かかります。

さらに重要なことは、通常1周期中、成熟して排卵に至る卵胞は1個であるということです。数カ月間にわたる卵胞成熟過程の最初の時点では、多数の卵胞が同時にその過程をスタートします。そして、成熟過程を経て、排卵される1個の卵子以外は、すべて閉鎖卵胞となり、自然消滅して行きます。この自然消滅にアポトーシスという自律的な破壊機序が働いています。すなわち、自然排卵では単一排卵のメカニズムが存在します。

排卵

成熟した卵胞が極点に達した時点で、LHの分泌がはじまると、卵胞内の圧力が高まり、卵巣壁の一部が破裂し、卵子が顆粒膜細胞に包まれたまま飛び出します。この現象を排卵といいます。排卵直前のLHの急上昇により、卵子の成熟が進みます。一方、排卵後は卵胞が黄体化してプロゲステロンを分泌しはじめます。