1章 生殖医療についての基礎知識
Ⅰ 女性の生殖に関わるホルモンとその役割
女性の生殖機能に中心的な働きをするホルモンは、脳の視床下部から分泌される「ゴナドトロピン放出ホルモン(gonadotropin releasing hormone:GnRH)」、脳下垂体から分泌される「卵胞刺激ホルモン(follicle stimulating hormone:FSH)」と「黄体化ホルモン(luteinizing hormone:LH)」、卵巣から分泌される「エストロゲン(estrogen)」と「プロゲステロン(progesterone)」の5つになります。
GnRHとFSH、LHは卵胞の発育と排卵、エストロゲンとプロゲステロンは子宮内膜を厚くする、妊娠しやすい状態を維持するといった役割を持っています。
性周期における卵胞の発育とホルモン・子宮内膜の変化
- ①視床下部からGnRHが分泌され、脳下垂体に作用します。
- ②刺激を受けた脳下垂体からはFSHが分泌されます。
- ③ FSHによって卵胞の発育が進み、卵胞からエストロゲンが分泌されます。
- ④エストロゲンの働きによって子宮内膜の厚みが増していきます。
- ⑤エストロゲンの上昇とともにLH が大量に分泌されて排卵が起こります。
- ⑥排卵後はFSH、LH が急速に低下、卵巣からエストロゲンと共にプロゲステロンが分泌されます。
- ⑦エストロゲンやプロゲステロンにより、さらに子宮内膜の厚みが増して着床しやすい状態となります。
- ⑧ 妊娠が成立しない場合はエストロゲンとプロゲステロンが減少し、子宮内膜は剥離して月経となって排出されます。
Ⅱ 排卵から受精、着床まで
排卵すると卵子は、漏斗状の卵管采に取り込まれます。一方、射精された精子は腟内から子宮頸管を経て、子宮腔内、卵管へと進み、卵管膨大部に達します。ここで卵子と精子は出会い、1つの精子のみが卵子に進入していきます。
受精卵はすぐに細胞分裂が始まり、胚となって2細胞期胚、4細胞期胚、8細胞期胚と卵管内で成長しながら子宮腔内へと運ばれていきます。4日後に子宮腔内に入る頃には桑実胚、5〜6日後は胚盤胞となって着床に至ります。受精から着床までの期間は約7日間といわれています。
Ⅲ 精子の受精能獲得
精液は精子と精漿(せいしょう)で成り立っています。通常の1回の射出精液は2〜6mL(平均3mL)、精子濃度は50〜150×106/mL(平均90×106/mL)です。
精子は精巣の精細管内において精祖細胞から造られます。しかし、射精した直後の精子には卵子に進入するための受精能がありません。精子が腟から卵管に移動する間に受精能の獲得が行われているといわれています。これは、精子頭部の先体部分が膨潤化し、卵子の透明帯を通過するための酵素を放出するためと考えられています。
精子は射精後85時間後でも卵管に達するという報告がありますが、受精能力を保てるのは射精後72時間位とされています。