3章 不妊症の検査について

Q3不妊症はどのような検査で診断されるのでしょうか

不妊症の原因を調べ、治療法を決めるうえで検査は重要です。検査方法は、「内分泌検査」、「不妊検査」、「染色体検査・遺伝子診断」、「内視鏡検査」、「画像診断」、「男性不妊検査」などがあり、さまざまな角度から不妊や流産の原因を調べます。

基礎体温

基礎体温測定

基礎体温は心身ともに安定した状態で測る体温のことで、毎朝起きた時に口腔内で測定します。月経周期の卵胞期(卵胞が発育している時期)では低温、黄体期(排卵した卵胞が黄体に変化する時期)においては高温となり、排卵の確認や後から振り返って排卵日を推測することなどに役立ちます。

内分泌検査法(視床下部・下垂体・卵巣系の機能検査)

下垂体ホルモン検査

月経2~5日目頃の血液検査で卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)などの分泌を確認することで卵巣機能や多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の診断の指標となります。また、授乳に関与するプロラクチンも下垂体から分泌され、血中プロラクチン濃度が高値であることが排卵障害の原因となることもあります。

卵巣ホルモン検査

エストラジオール(E2)やプロゲステロンといった卵巣性ステロイドホルモンの分泌を観察します。卵胞が発育してくるとエストラジオールの分泌は増え、排卵後にプロゲステロンが分泌されます。

AMH 検査

AMH(anti-müllerian hormone)は卵巣内の卵胞から分泌されるホルモンで、その値は卵胞数を反映するため、卵巣機能の予備能の検査に用いられます。PCOSでは数値が高くなります。AMHは月経周期などに影響されにくいため、測定時期が限定されることはありません。

不妊検査(卵巣・卵管・子宮検査)

卵巣検査

排卵の有無、排卵時期の推定、黄体機能などを調べる検査です。基礎体温測定、尿中エストロゲンの測定、血中エストラジオール・プロゲステロン測定、経腟超音波検査、頸管粘液検査などが行われます。

卵管検査

卵管通気検査、超音波検査、卵管造影検査、腹腔鏡検査、卵管鏡検査などを行います。卵管は精子の通路、卵の捕獲と輸送、受精卵の初期発生の場、受精卵の子宮への輸送などいろいろな機能を持っており、その機能評価のために行います。いずれの検査も、卵管の通過性は確認できても、受精卵を子宮内に輸送する機能などを正確に評価するのは難しいことがあります。

子宮検査

画像検査(超音波検査・MRI検査)、子宮造影検査、子宮鏡検査、子宮内膜組織検査、腹腔鏡検査などを行います。子宮は精子の通過、胚の着床の場、胎児を保持する容器としての機能を持つため、子宮頸管粘液の分泌不全、子宮の形態異常(重複子宮や中隔子宮など)、子宮内膜ポリープや子宮筋腫の有無、子宮内腔の癒着や狭窄、子宮内膜の機能不全などを調べます。ヒューナーテスト(性交後試験)は、排卵時期に性交渉の後に病院で頸管粘液の中の運動している精子を確認し、頸管粘液中で精子の数や運動性が低下し子宮頸管内の通過ができないという病態がないかを調べます。

染色体検査・遺伝子診断

染色体分析法

染色体は正常な場合、2本の対になっていますが、異常な場合は過不足があります。1本少ないものをモノソミー、1本多いものをトリソミー、2本多いものをテトラソミーといい、胚にそうした染色体の異常があるとほとんどの場合、流産してしまいます。他にも、染色体の一部が入れ替わる転座、一部が欠けている欠失、正常とは逆の配列になっている逆位といった染色体の異常があります。

一部の染色体異常は発見されないまま成長して大人になり、不妊症を来すものがあります。

DNAによる遺伝子診断

染色体はDNA(デオキシリボ核酸)によって構成されており、DNA は親から子へ遺伝する形で受け継がれるため遺伝子と呼ばれています。DNAを調べることによって行われる遺伝子診断にはサザンプロット法、PCR 法、FISH法などがあり、遺伝子の異常が原因で起こる流産を事前に防ぐことを目的に行われます。

内視鏡検査

腹腔鏡検査

内視鏡を腹腔内に挿入して行われる検査で、腹腔内や子宮・卵管・卵巣といった骨盤内にある臓器の状態を観察します。不妊症、子宮内膜症、異所性妊娠、腫瘍、性分化異常などの診断に用いられます。

子宮鏡検査

内視鏡を子宮頸部から子宮内腔に挿入して行われる検査です。子宮内膜ポリープ、粘膜下子宮筋腫、先天性の子宮形態異常、子宮内腔癒着症、子宮内膜肥厚、萎縮など子宮腔内の異常が予想される場合に用いられます。

卵管鏡検査

内視鏡を挿入して卵管腔内を観察する検査です。卵管鏡を腟から挿入する方法と、腹腔鏡下で卵管采や卵管腹腔口から挿入する方法があり、卵管性不妊症の診断に用いられます。

画像診断

超音波断層法

通常の婦人科診察時に経腟法によって行われ、子宮や卵巣の様々な情報が得られます。不妊検査で用いられる画像診断としては最も多く用いられています。

子宮卵管造影法

造影剤を子宮口から子宮腔内に注入して行う検査です。子宮の形状、卵管の疎通性や走行、骨盤内の癒着などを診断するために行われます。

男性不妊検査

男性不妊の原因には「造精機能障害」、「精路通過障害」、「精索静脈瘤」、「性腺機能低下」、「性機能障害」などがあります。最も多いのは造精機能障害ですが、近年は性機能障害が増加しつつあります。婦人科だけでなく、泌尿器科での診察が行われる場合もあります。

超音波診断法

超音波検査では精巣上体における嚢胞性の腫瘤、精液検査の悪化の関連性が考えられる微小石灰化症などを診断することができます。また、精路通過障害や精液量の減少が見られる場合も、射精管嚢胞を疑い超音波検査を行います。

一般精液検査

一般精液検査では精液の透明度、量、精子濃度、運動性、形態、生存性などを調べます。運動性では「速度」、「精子の前進運動の有無」、「非運動精子」などを評価します。

内分泌検査

精巣の働きは精子形成と男性ホルモンであるテストステロンの産生にあるため、視床下部から下垂体、精巣のホルモンの流れを調べる内分泌検査は重要です。造精機能の評価のスクリーニングとしてLH およびFSH の測定、内分泌療法を行う場合にはテストステロンやエストラジオールの測定を追加します。

染色体検査

染色体の異常によって乏精子症を発症するクラインフェルター症候群やY 染色体微小欠失を診断するために行われる検査です。検査法には染色体の構造的異常を調べる「細胞遺伝学的検査」、DNA の増幅によって調べる「PCR検査」、DNAの塩基配列を調べる「DNAシークエンス解析法」があります。

【参照生殖医療ガイドラインCQ】

CQ3. 体外受精・顕微授精の至適試行回数と適格条件は? 体外受精・顕微授精は妊娠成立に有効か?
CQ4. 直接体外受精・顕微授精に進んでよい場合は? 卵管両側閉塞や重度男性不妊症例(精子濃度100万/mL 以下など)に対する一般不妊治療は無効か? 体外受精・顕微授精が有効か?