4章 不妊症と診断されたら

Q4不妊治療はどのような基準や設備を持つ施設で行われるのでしょうか

不妊治療は高度な医療技術や専門設備が必要とされるため、保険診療による不妊治療を行う診療施設には以下のような基準が定められています。

一般不妊治療(タイミング法・人工授精)

  1. 産科、婦人科、産婦人科または泌尿器科を標榜する保険医療機関であること。
  2. 産科、婦人科もしくは産婦人科において合計5年以上、または泌尿器科において5年以上の経験がある常勤医師が1名以上いること。
  3. 不妊症の患者の診療を年間 20例以上行っていること。
  4. 生殖補助医療管理料についての届出を行っている、もしくは生殖補助医療管理料についての届出を行っている他の保険医療機関と連携していること。
  5. 一般不妊治療管理料の施設基準にかかわる届け出を行った保険医療機関であること。

生殖補助医療(体外受精・顕微授精)

  1. 産科、婦人科、産婦人科または泌尿器科を標榜する保険医療機関であること。
  2. 産科、婦人科もしくは産婦人科において合計5年以上、または泌尿器科において5年以上の経験があり、かつ生殖補助医療について2年以上経験がある常勤の医師が1名以上いること。
  3. 日本産科婦人科学会の体外受精・胚移植に関する登録施設において生殖補助医療を1年以上の経験がある常勤医師が1名以上いること。
  4. 配偶子・胚の管理にかかわる責任者が1名以上いること。
  5. 関係学会の配偶子・胚の管理にかかわる研修を受講した者が1名以上いることが望ましい。
  6. 日本産科婦人科学会の体外受精・胚移植に関する登録施設であること、また、日本産婦人科学会のART オンライン登録へのデータ入力を適切に実施すること。

さらに、生殖補助医療ガイドラインでは、生殖補助医療には以下の設備を整えた施設が推奨されています。

  1. 培養室の空気を適切な状態にするためにHEPAフィルターを設置し、また揮発性有機化合物をコントロールしていること。
  2. 培養室には、卵・精子・胚の処理・培養、凍結保存にかかわる機器ときちんと鍵が掛かる設備を備えていること。
  3. 採卵室の空気を適切な状態にするためにHEPAフィルターを設置し、また揮発性有機化合物をコントロールしていること。
  4. 採卵室には、採卵手技にかかわる機器:手術台、超音波断層装置、酸素吸入器、吸引器、生体監視モニター、救急蘇生セットを備えていること。
  5. 採卵室・培養室には治療・処置や機器の操作のマニュアルを備えていること。
  6. 採卵室・培養室において治療・処置の記録、機器作動点検の記録を行うこと。
  7. 採卵室・培養室において治療・処置、またその環境の安全管理がなされていること。
  8. 培養室については緊急時バックアッププランを作成すること。

【参照生殖医療ガイドラインCQ】

CQ 1:採卵室・培養室の備えるべき条件は?
CQ28:配偶子・胚・卵巣の凍結保存を実施する施設の要件と注意点は?

Q5生殖補助医療には医師の他にどのような医療スタッフが関わるのでしょうか

生殖補助医療においては採卵や培養、凍結保存などいろいろなことが行われるため、医師以外に、看護師、胚を取り扱える技術者(医師あるいは胚培養士)が必要です。
さらに、必須ではありませんが、望ましい医療スタッフとして、泌尿器科医(精巣内精子採取術、顕微鏡下精巣上体精子吸引術などを行う)、コーディネーター(生殖医療に関わるすべての職種の調整を行う)、カウンセラーなどがあります。

日本産科婦人科学会では、実施施設の責任医師について以下のような基準が設けられています。

【参照生殖医療ガイドラインCQ】

CQ 2:責任医師の資格等は? 医師以外の人員は?
  1. 日本産科婦人科学会認定の産婦人科専門医で、専門医となった後、不妊治療に2年以上従事していること。
  2. 日本産科婦人科学会の体外受精・胚移植に関する登録施設(生殖補助医療に関する登録施設)において1年以上勤務、または1年以上の研修を受け、体外受精・胚移植の技術に習得していること。
  3. 常勤であること。
  4. 日本生殖医学会認定生殖医療専門医であることが望ましい。

Q6不妊治療のことで不安がある場合どのようなサポートを受られますか

不妊治療を実施する医療機関では、不妊治療に関するさまざまな情報を得ることができます。わからないことがあれば、遠慮せずに聞いてみましょう。

「生殖医療ガイドライン」(日本生殖医学会)では、不妊治療における情報提供と精神的なサポートについて、次のような見解をまとめています。

  1. 不妊患者( カップル) には不妊治療一般に関する情報とともに、実施施設における不妊治療の情報を提供
    する。
  2. 不妊患者のニーズや希望を察知し、診療スタッフでそれらを共有し対応する。
  3. 精神的支援はそれを必要とする、あるいは必要と判断される不妊患者への提供であることを考慮する。
  4. 心理学的・教育的介入は、それが必要とされる不妊患者のメンタルヘルスを改善する。
  5. 心理学的・教育的介入が不妊患者の妊娠率を改善させるかどうかは不明である。

不妊治療を受ける患者さんやご家族は、精神的ストレスを感じやすい環境にあります。心理カウンセリングなどの精神的支援が、不妊治療に伴う不安や抑うつといったメンタルヘルスの問題を改善することが示されています。少しでも不安なことがあれば、患者さんだけで抱え込まず、相談してください。

また、国は不妊症に悩む方を対象として、以下のような支援体制を整えています。

不妊専門相談センター

全国の自治体で設置する「不妊専門相談センター」では不妊治療に関する各種情報提供を行っています。また、不妊治療に関する心の不安や悩みなどについて、医師や助産師などの専門家が相談に応じています。全国の不妊相談専門センターは、厚生労働省のホームページで検索することができます。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000181591.html

【参照生殖医療ガイドラインCQ】

CQ36: 不妊治療を受ける患者に必要な情報提供と精神的支援は? 心理学的・教育的介入は不妊治療を経験する不妊患者(カップル)の心理、社会的アセスメント・サポート(支援)に有効か?